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「ラスト・ソング」のその後

眼の話(その1)

晩年の父のヘルスケアで一番苦労したのは「眼」だった。

これは敢えて「ラストソング」には書かなかった。書き始めたらそれだけで分厚い本が1冊書けそうなくらいだったし、(私の関与が少なくて)正確に思い出せる自信がなかったというのもある。今となっては尚更、正確には思い出せないけれど、私の記憶を辿ってみたい。

 

始まりは白内障の手術だった。

70代後半になると誰もが見えにくさを経験するらしい。用心深い父は徹底的に医者を調べあげ、アクセシビリティの良好な眼科専門の病院を受診し、綿密な検査の後、白内障の手術を受けることに決めた。2008?年9月だった。

 

白内障の手術は70代以下であれば通院でできるそうだが、80歳になっていた父は1週間ほど入院することになった。簡単な手術。年をとると誰もが通る道(らしい)。でもその先は決して暗くないようで、瀬戸内寂聴さんなんかも、手術後は世界が明るくなったとテレビで言っていた。だから心配というより、父としては期待していたのだろう。

 

数日の入院というのに夜逃げのように大量の荷物を作ってしまった父に付き添って、私は初めて五輪病院に向かった。台風の影響で雨風の強い日だったが、電車を使って徒歩で行った。6~7人ほど入る大部屋の一番奥の窓際が父のベッドだった。翌日が右目の手術、翌々日あたりに絆創膏が取れたら左目の手術ということだった。