Last Song Latest

「ラスト・ソング」のその後

検査は絶対ではないのです

昔々あるところで一緒に仕事をしていたおじいさん…ではない…M氏は、「アウト・ブレイク」にハマった。

エボラ熱が “アウト・ブレイク” するストーリーは刺激的で、日本でもブレイクし、映画化され、類似品も現れた。私も影響を受け、フィクション、ノンフィクションをいとわず感染症やウイルスに関する本を随分読んだ。いまだに何冊か本棚に残っているが、そこには未だ「コロナウイルス」の文字はない。

 

コロナ…の名前は確か、学生時代に「風邪様症状を引き起こす微生物」の一つとして聞いたかもしれないが、試験に出てくるほどのものでもなかった。

その名前が今、1日何千回メディアに登場するだろう。

まるで、付き人をやっていた俳優志望者が一躍、映画の主役に抜擢され、アカデミー賞をとったようだ。

 

何故、こんなに有名になったのか?

他の微生物たちは妬んでいることだろう。俺もその裏ワザを使って有名になってやろう…と密かに策略を練っている微生物もあるかもしれない。華々しいデビューを飾ったエボラ氏など、嫉妬の炎に燃えているに違いない。我々の目がコロナ氏に向いている間、反対の大陸ではインフルエンザ氏も次の受賞を狙っている。

 

コロナ氏が有名になったのは、当初は、毒性の強さ=致死率の高さ…だったはずだ。

だが、やがてそれは思ったほどではないことが分かってきた。

低いとは言えないけれど、エボラウイルスに比べると可愛いものだ。

 

今我々を脅かしているのは、感染が水面下で起こり得るということだ。観光バスの運転手、クルーズ船の乗客たちは、誰から感染したのか、どうやって感染したか分かっていない。

ここまでは、前回までのブログに書いてきた。

 

もう一つ、コロナ氏を舞台に押し上げたのは、人間ではないか?

…人間が作り出す「情報」ではないだろうか。現象を “映し出す” 情報は溢れているというのに、正確な情報が不足しているところがある。

 

中国から届く病院や街中の映像。ソーシャルメディアの発達で、一般市民の投稿がつぶさに見られる。刺激的なものはテレビでも繰り返し放送され、恐ろしさが強調される。

 

日本国内では正確と思われる情報が日々アップデートされているが、クルーズ船の乗客など、本当に必要な人たちには情報が届いていないようだ。

クルーズ船の外国人クルーたちが「早く検査を受けて外に出たい」と言っていた。乗客に「陰性の証明がほしい」という声も多いらしい。

 

全員検査に向けて動きがあるようだけど、検査は解放されるためにするのではない。陰性の証明といっても検体を取った一時点の証明にすぎず、結果を受け取る頃にウイルスの排出が始まっていることだってある。

今まで検査をしなかったのは、キャパシティの問題もあろう。が、現在用いられているPCR法にしても、インフルエンザで用いられている方法にしても、確かに「無症状の陽性患者」は捕まえられたとしても、潜伏期の患者までは検出できないことが多い。だから検査陰性になってもウイルスが体内にないとは言い切れず、したがって船の外に出られない。

蛇足ながら、インフルエンザで用いられている試験法も、抗体ができていなければ、または検体の取り方次第で、私が「ラスト・ソング」に綴った経験のように陰性と出てしまうこともある。

そういうことも周知させなければ、今度は「陰性なのに何故、船から出られない?」と言われることになる。

 

検疫後、「検疫は1回しか行われず、すぐに終わってしまった」とイギリス人が(イギリスの)メディアに訴えていた。検疫を医師の回診と混同されていたのかもしれない。検疫とはどういうものか、多言語で書いたものを用意するべきだと思う(検疫官は英語がカタコトだったらしい)。

 

感染が確認されて入院した人も、医療関係者が防護服を着ていることに不安を感じると言っていた。医療関係者がひとこと言及してくれれば、不安は軽減しただろうに。

 

部屋に隔離後、廊下に出ないよう見張り役の乗組員がいると言っていたが、隔離の意味がきちんと伝わっていれば、(特に乗客に日本人が多いのであれば)そのような仕事は無用なはず。見張り役が感染者だったらどうするのだろう。

 

おそらく、きちんとした情報を把握している人が乗船していないからだろう。乗客だけでなくクルーにも外国人は多く、細菌とウイルスの違いも分からない人もいるかもしれない。

船内のテレビを使って、多言語で情報提供できないのだろうか。ウイルス感染のしくみなどを分かりやすく説明する動画など、提供できないだろうか?

 

そして最近の関心は「検査」に集中している。

検査は、症状のある人に行って陽性になれば処置の助けになるし、無症状キャリアも隔離できる。が、無症状の人に行って陰性だった場合は「現時点では検出されない」ということしか言えない。簡易検査(キット)ができたとしてもそれは同じことだ。

 

日本人は検査が好きだ…と思う。外国人はどうか知らないけれど。

国民皆保険のおかげでもあって、ちょっと具合が悪くても、「病院に行って調べてもらえば?」ということになる。検査項目をたくさん入れてくれる医者が「良い医者」と言われる。病気の早期発見につながるので、悪いことではない。

 

問題なのは、検査で何でも分かると思われていることだ。

おそらくこれは、「大抵のことが検査で分かる」ようになった進歩の裏返しだと思う。

ウイルスがある程度増殖して外に出てこないと、検出できないのと同じように、いくら感度の良い検査でも全てが分かるわけではない。あくまでその時点にあるターゲットに絞って測った値にすぎないのだ。検査の結果は絶対的なものではない(前のブログでベタ褒めしたPCR法もあまりアテにならないそうです (T_T))

 

もう一つ問題なのは、本当に受けたほうがいい人に限って検査を受けないことだ。

こんなに検査が普及して、どこの医者に行ってもたっぷり検査をしてくれる。ボーッと生きていても健康診断のお誘いは(おそらく)誰にでも届く…というのに、敢えてそれらをスルーして、自慢にさえしている人のなんと多いことか。

 

まあ、このくらいにしておいて…と。

私は、クルーズ船に関しては、検査よりも環境と情報の改善を優先すべき…と思う。