Last Song Latest

「ラスト・ソング」のその後

高齢者を救え!

新型コロナウイルス・シリーズ、第4弾です。

 

今朝、ダイヤモンド・プリンセスの乗客から新たに41名の陽性者が見つかった…というニュース速報を見た瞬間、私は叫び声を上げてしまった。

 

25歳のとき、オーストラリア旅行に行った。ケン・ドーンが流行し、若い女子がこぞって行った頃だ。

地球の歩き方」に洗脳されていた友人の誘いで、ホテルも、移動も、ビザも、すべて自分たちで手配して行った。シドニー3日間、その後パースで3日間…って感じだったか。

 

シドニーを存分に楽しみ、パースに移動する飛行機に乗る直前、私のパスポートがないのに気がついた。全身の血が引いた。まだ旅行経験の浅い20代、どう対処したらいいのか分からず、とりあえず友人だけパースに行ってもらった。私は半べそかいて、シドニーにいる友人に電話をかけて頼み込み、とりあえず一晩泊めてもらうことにした。友人は車を飛ばして空港に私を拾いに来てくれた。

 

友人はご両親と住んでいた。お父様は大手銀行のシドニー支店長ということで、お家にはゲストルームもあり、前日まで泊まったホテルよりうんと高級感があった。

レストランのようなキッチンでオムレツをご馳走になった。

 

落ち込む私。ご家族は、どんな話をするべきか戸惑われたに違いない。しんとした夕食となった。

そのとき、お母様が声をあげた。

「あなた、これ、キュナードよ!ああ、すてきねー。いつかこういう船に乗って世界一周がしたいわね!」

テレビには外国の豪華客船が映っていた。

 

父は旅行好きだったがクルーズの類には興味が全くなかったので、そういう贅沢な旅行が存在することすら私は知らなかった。後になって、キュナードとはクイーン・エリザベスII世号のことであることを知った。

パスポートは翌日、お母様に付き添っていただいてホテルに探しに行ったところ、ホテルのベッドの下から発見された。見つけた瞬間、お母様に抱きついて泣いてしまった。

 

ずうっと忘れていた、この一連のエピソードを、今日、クルーズ船の画像を見ていたら、映画の一場面を見るように思い出した。あれから30年近くが経つ。ご夫婦のキュナード・クルーズは実現されただろうか。ご息災だとすると、今もクルーズ船などに乗って旅行をされているかもしれない。

 

クルーズ船のウイルス陽性者には80代の方も少なからずおられた。陽性ではない方にも、たくさんの高齢者が含まれていることが想像できる。その中に、お母様やお父様が入っていると考えるほど単純ではないけれど、クルーズで旅行されていた高齢者の方たちは、あのご夫婦のように、今まで懸命に働き、それに寄り添い、やっと訪れた人生の実りの時期を楽しんでおられたのだろう。

 

“遠くは行けなくなってしまったけれど"、"飛行機はしんどいけれど” …そんな理由でクルーズ船の旅を、皆さん、楽しんでいたに違いない。それが、”楽しかった旅行も終わり、明日は家のベッドで眠れる” …と思っていたところで、このような事態に巻き込まれてしまうなんて、気の毒でならない。

 

高齢者は元気なように見えても脆い。2週間も部屋の中に閉じ込めてしまったら、帰りは歩けなくなってしまうかもしれない。ウイルスには感染しなくても重篤な病気になってしまうかもしれない。

できれば、高齢者だけでも、病気を持っている人だけでも、何か措置を取ってあげられないだろうか?