Last Song Latest

「ラスト・ソング」のその後

メアリーがいっぱい

19世紀末のアメリカ。

メアリー・マローンという女性がアイルランドから渡ってきた。メアリーは、ニューヨーク周辺のお金持ちの家に住み込み料理人として雇われた。メアリーは料理上手で、皆から喜ばれた。

 

メアリーが30歳くらいのとき、メアリーの雇われていた家の住人がチフスに罹り、メアリーは献身的に看護をした。その後、メアリーは何度か勤め先を変えたが、何故かメアリーの働く家の人たちは次々とチフスになっていった。患者の数は、分かっているだけでも22人。そのうち1人は亡くなってしまった。

 

これは、「世にも奇妙な物語」でも、ミステリのあらすじでもない。公衆衛生学や(食品)微生物学の教科書には載っている、「チフスのメアリー(Typhoid Mary)」として語り継がれている実話である。

 

その後の調査で、メアリーの便からチフス菌が検出され、メアリーは隔離された。

メアリーは食品を扱う仕事から離れることを条件に隔離を解かれたが、約束を破って偽名で調理人として働き、新たに25人に感染させ、2人の死者を出すことになった。メアリーは再び隔離された。今度は、死ぬまで。

 

メアリーは、おそらく最初に感染し、多少は症状もあったのかもしれないが程なく回復し、免疫を獲得した。が、体内に潜んだチフス菌は彼女の胆嚢を住処として、そこで増殖し、排出され続けたのだ。

顕微鏡はあったが、病原菌の概念は一般の人には浸透していなかったのかもしれない。ましてや本人が健康そのものなのに菌が体から出ているなど、当時は、容易には信じられなかっただろう。

 

病気で苦しんだ人、亡くなった人にとってはもちろん悲劇だが、何よりの悲劇の主人公はメアリーだろう。自分の料理を美味しいと言ってくれる人たちに喜んでもらうために職務を全うしただけなのに、結果的にその人たちを自分の手で苦しめ、殺めることになってしまった。そして挙げ句の果てに職や自由まで失ったのだ。

 

現在ではチフス菌は抗生物質で叩くことができる。が、今の世でも、一旦感染すると、症状が治っても排菌が止まるまで延々検査をしなければならない。

 

Covid-19感染では “メアリー” を思い起こす話が、毎日のようにニュースとして伝えられる。

 

クルーズ船からようやく下船できた人たちも、自らが “メアリー” にならないよう、せっかく自由になったのに、自己規制を “強いられている”。

それは悪いことではないと思うし、私も、近くにクルーズ帰りの人がいたら、ランチの約束は2週間後以降にしたい。

 

その一方で、皆さんがクルーズ船に閉じ込められていた間、すでに日本自体がクルーズ船に近い状態になってしまった。”メアリー” はすでに日本にたくさんいる(と思う)。

 

2月上旬にクルーズ船を下船されていたら、皆さんのCovid-19感染に対する意識も薄かったかもしれないし、クルーズ船旅行者から感染者が出たら大問題になっていただろう。だけど、いまや皆さんは重大な経験をされて、皆さんのおかげでウイルスに対する知見も日本中に広まった。誰より皆さんが不安がっていることを、日本中が知っている。2月上旬に下船されていれば ”メアリー” になっていたかもしれないが、今や事情は違うはずだ。

 

せっかく胸いっぱい吸えるようになった日本の空気。早咲きの桜でも見に行って、免疫力の強化をはかられてはいかがでしょうか? ミモザの花も満開です。

 

ただ、街中に出て、そこかしこにいる “メアリー” からウイルスを逆に貰わないようにご注意ください。

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早咲き桜

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ミモザも昨年より1週間以上早く満開です