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「ラスト・ソング」のその後

消毒薬は毒

「手指をアルコール消毒した直後にタバコに火をつけると引火します」とニュースで言っていた。

やっちゃった人がいたのか…と思った。びっくりしたことでしょう。

消毒用アルコールはアルコール70%。消防法の危険物で、大量に所持することは禁じられているし、火を近づければ引火する。いっぱい買っちゃった人は、病院に寄付しましょう。

 

武漢では、部屋の中にアルコールを噴霧して火事になった(爆発した)例があった。

火炎滅菌という滅菌法もあるけれど、住居には適用されない。

 

次亜塩素酸水を飲むと予防になると、SNSで出回っていたという話も聞いた。

消毒薬も、適切に使わなければ毒になる。

 

ウイルスに有効な消毒薬は、グルタラール、次亜塩素酸ナトリウムポビドンヨード、消毒用エタノールだ。消毒薬ではないけれど、界面活性剤(石鹸)も、脂でできたエンベロープを溶かすので有効とされる。クレベリンというものも出回っているが、消毒作用の原理は次亜塩素酸と同じと思われる。

 

ちなみに、ターゲットの微生物によって消毒薬の種類は多岐にわたる。ウイルスは一番殺しにくいと思われそうだけど、もっとしぶといのがいる。結核菌と、細菌の「種子」ともいえる「芽胞」だ。どちらも厚い殻で保護されていて、ちょっとやそっとでは壊せない。

 

さて、上記のうちポビドンヨードは “うがい薬” や、喉に塗る薬として使われるが、エグい色がついているので一般的ではない。ジャガイモを切って一滴垂らすと、ヨウ素デンプン反応で青くなる。

グルタラールは医療器具を始め、物品に用いられるが、市販されていない(私が知る限り)。

 

アルコールは手指の消毒や狭い面積を拭くのに使う。手指用にはジェル状のものが市販されていて、とても便利。

拭き取りに使うときは脱脂綿などに含ませる。霧吹きに入れて噴霧しても使えるけれど、必ず火気のない部屋で、噴霧したものはすぐに布などで拭き取るべきだし、霧吹きに入れた分はなるべく使い切る。

 

次亜塩素酸ナトリウムは、水溶液にして器具や布を漬けて消毒することが多い。水そのものの消毒に使われ、水道水、プール水、ときに浴場水に入れられる。飲食業では食器やおしぼりの洗浄に多用され、野菜にも使われる。

感染症の場合は、アルコールより広い範囲の拭き取りに使う。コロナが流行してから、スーパーや駅で拭き取りに使っているのは、次亜塩素酸系の消毒薬のはずだ。

高濃度を使用したり、酸と一緒に使うと危険だが、適切な濃度で使えば一番安全。食塩を原料として安価に作れるので、無料配布されることもある。

 

ウイルスを殺すことができる物質は、この4種に限られない。塩酸も硫酸も(実験したことはないがおそらく)ウイルスを殺すことができる。有機溶剤にも、殺菌、殺ウイルス作用のあるものは多いと思う。だけど、これらを消毒薬として使うことはない。アルコールも、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、アミルアルコール、グリセロール、ソルビトール、フェノール…私ごとき者でも名前はいくつも浮かび、これらはそれぞれ様々な分野で大活躍しているが、消毒薬として使われるのは主にエタノールだ。

 

というのは、消毒薬となるには、いくつかの条件があるからだ。

安全であること、入手しやすいことなど。

細菌やウイルスを殺すということは、これらにとって「毒」だということ。生き物にとって毒ということは人間にとっても毒になる。ただし、「使い方次第で人間には安全」であることが消毒薬の絶対条件だ。だから、指定された濃度や使い方から外れれば、人間に対しても毒になる。次亜塩素酸を飲んだら人間もひっくり返るし、吹きかけられれば粘膜が腫れ上がるだろう。もし殺めたい人がいたら、注射をすればいい。ただし「よいこの皆さんはやらないでください」。

 

入手しやすいということは値段が安いということでもあり、取り扱いがしやすいということでもある。

滅菌法には消毒薬の他に、熱を加えたり、紫外線を当てたり、ガスを充満させる方法もあるけれど、一般の人にはできない(紫外線は最近、売られているそうですが)。

 

アルコールと次亜塩素酸系の消毒液は、ウイルスを殺す方法は絞殺と刺殺ほどに違うが、便利で安全な共通利点がある。

これらは、使った後、そこに残らないことだ。

例えば、石鹸水(界面活性剤)もウイルスには有毒に作用するけれど、石鹸水でそこら辺を拭くと、水が蒸発して石鹸分が残る。ベタベタしたり、手が荒れたり、床が滑ったり、変色することもあるかもしれない。が、アルコールや次亜塩素酸はなくなってしまうのだ。次亜塩素酸(イオン)は水の中にしか存在できない。

 

次亜塩素酸ナトリウムのボトルを長時間置いておくと、効果はなくなる。飲んだことはないけれど、おそらく塩水になっているのではないだろうか。塩素系消毒液には有効期限がある。

 

ただ、アルコールはアルコールの形のまま空気中に蒸発してしまうが、次亜塩素酸の場合は分解してナトリウム分が残るので、そのままにしておくと金属が腐食されたり、ゴムが劣化することもある(と思う)。拭き取りはマストだし、拭き取ることでウイルスと消毒液が接触する機会を増やすこともできる。

 

消毒薬の事故が増えているという。

引火のほか、誤飲も多いらしい。無色透明だと誤って飲んでしまうこともあるのだろう。

十分気をつけてほしい。

消毒薬は「適切に」使ってこそ「消毒」薬。そうでなければ「毒」になってしまうのです。