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「ラスト・ソング」のその後

特効薬はどこに?

アビガンが、新型コロナウイルス肺炎治療薬として認可され…そうで、なかなかされない。

 

当初からコロナに有効と言われていたアビガンは、鳥インフルエンザの治療薬に開発された。

おそらく「アビ」は、鳥を意味する「avi」だろう。薬の商品名の由来は、聞くと腰がくだけてしまいそうなものが多い。

 

インフルエンザに効く薬が全て、新型コロナウイルスにも効くわけではない。

インフルエンザの治療薬であるタミフルリレンザも、新型コロナウイルスには効かない。

インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスは、タマネギとニンニクほどに違うからだ。

 

どっちも風邪みたいな症状を起こすし、どっちも鼻に綿棒を突っ込んで検査する。だけど、これらのウイルスはRNAウイルスであるという共通点があるだけ。タマネギもニンニクも、匂いの強い根の野菜だ…というのと同じこと。用途は全然違う。インフルとコロナでは、味も調理法も効果も違う。

 

さてさて、アビガンは、そのRNAの複製を阻害する。つまりRNAウイルスという共通点に対して作用する。タミフルリレンザは、インフルエンザウイルス特有の構成成分に作用するので、コロナには効かない。

 

しかしRNAやDNAは(総じて核酸と呼ばれ)、全ての生物の全ての細胞に含まれている。核酸の複製を阻害するということは、人間のRNAやDNAの複製も阻害することになり、重大な副作用を生じる可能性が高い。アビガンは生まれてくる子供に奇形を生じることが、動物実験で分かっている。核酸の複製は、胎児で盛んに行われているからだ。

かつて「サリドマイド」という薬にもそういう作用があって社会問題になったため、子供を作る可能性のある人には十分に説明し、慎重に投与される。

 

この作用機序を聞くと、子供を作るつもりがなくとも、服用を躊躇われる人は多いだろう。肺炎の重症度と副作用の危険性とを天秤にかけて、肺炎を治すことが優先された場合だけ使われるべきである。ちなみにアビガンは錠剤なので、人工呼吸器を装着した人には使えない。

 

やはり新型コロナウイルス肺炎の治療薬に認可されたレムデシビルは、エボラ出血熱の治療薬として開発された。

やはりRNA複製に作用し、重い副作用があるとされる。が、エボラ出血熱の場合は致死率が非常に高く、他に治療法がないことから “死ぬよりはマシ” と認められていた。レムデシビルは点滴として投与されるため、錠剤が飲めない重症の患者に使われる。やはり副作用を注意深く観察しなければならない。

 

アビガン、レムデシビルとも、効く人には効くらしい。重症化率もある程度は下がっているかもしれない。が、死者がゼロになるわけでもなく、人工呼吸器を使っている人も多くいることからも、「著効」というほどの効果がない可能性もある。安全性の懸念も残る。

 

でも悲観することはない。

40歳以上の人は思い出してほしい。

インフルエンザにも、かつては治療薬はおろか、検査キットさえなかったのだ。

帯状疱疹の原因であるヘルペスウイルスに効く薬もなかったし、かつてAIDSは死の病だった。今はどれにも、よく効く薬が存在する。

 

そして科学技術の進歩のスピードも、どんどん速まっている。

 

新型コロナウイルスが誕生してまだ半年も経たないのに、検査法・検査キットの類は増えている。治療薬も、以上の2つの他に、マラリアの薬や、膵炎の薬、寄生虫の薬、喘息の薬など、多岐にわたる薬物が候補として挙がっている。

これらの薬の他に、今までに安全性が確立されている薬は世の中にゴマンとある(正確な数は私は知らないが、世の中には膨大な数の「薬物」が存在する)。

 

新薬の開発にはお金も時間もかかるが、既存の、安全性の確立されている薬物の中から、新たな作用が見つかることもある。

先に述べた「サリドマイド」も、今は全く別の病気の特効薬として、副作用を承知の上で使われている。

心不全の薬が肺癌に効くことがわかったり、胃潰瘍の薬がドライアイに効いたりする。

身近な例では、アレルギーの薬が入眠剤に使われたり、アスピリンが大腸癌に効くこともわかっている。

何と言ったか、父が使っていた目薬は、まつ毛を長くする効果があり、女子が美容のために欲しがるらしい。父のまつ毛は伸びなかったけれど。

癌治療も、部位の違う癌に対して使っていた薬を別の癌に使ってみたら治ったという話もある。

 

こういう作用は偶然判明することもあるが、闇雲に人体実験をしているわけではない。アビガンの例でも分かるように、科学者は「作用機序」という理論のもとに「効くはずの薬」を探し出す。さらに今は、AIやスーパーコンピューターという秘密兵器もある。上記癌治療の話は、癌細胞の遺伝子情報をもとにAIが薬を選び出したそうだ。

 

ウイルスの遺伝子情報や、解明された感染メカニズムなどをもとに、これら秘密兵器が「薬が効く部分」の立体構造を予測し、そこにピッタリの「安全で良く効く薬」を、膨大な化学物質の中から、今も「計算」している最中のはずだ。

世界中の薬の研究者の皆さん、今一度、その薬、コロナに使ってみませんか?…って感じ?

 

私の意見をちょっとだけ書かせてもらうと、漢方薬あたりに、重症化を防ぐ薬があるんじゃないかと思ったりもする。ただ漢方薬は、成分は科学的に解明されてはいるものの、副成分も多く、複雑なメカニズムで効くことも多いため(薬草の産地が違うだけで効果に差が出ることもある)、AIの目をくぐり抜けてしまうかもしれない。

 

一方では、世界中の企業や国を超えた連携により、ワクチン開発が進められている。

 

ちなみに彼の国の大統領、今度はウイルス検査陰性と公言しながらヒドロキシクロロキンという抗ウイルス薬を服用なさっていると言う。治療薬は予防薬にはなりません。ワクチンの治験に参加されてはいかがでしょう?

 

来年のオリンピックでは、「この選手は来日したときコロナ陽性だったのですが、新薬・コロチンを服用したら半日で回復。今日はメダル獲得となりました」という解説が聞けるといいですね。