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「ラスト・ソング」のその後

秋空聖地巡礼

天高き季節。かつては毎年、この季節になると私は「聖地巡礼」をしていた。

父が育ち、祖父が長年仕事に通い、祖父の葬儀を行い、父と私も数年仕事に通った(職場はそれぞれ違うが)、我が家の聖地、築地参りだ。

 

外市場でお昼ごはんを食べた後、季節の食材や魚河岸ならではのお茶を入手し、共栄会ビル内の輸入食品店で紅茶やチョコレートを持ちきれなくなるまで買う。お団子を買ったり、食器屋さんを覗くこともあった。帰りは本願寺を拝むこともあり、銀座まで歩くことも多かった。

 

お昼ごはんは、天ぷら定食のこともあり、カキフライ定食や魚料理のこともあったが、私のお気に入りは、天ぷらの種類が選べる天ぷらうどん。早めに到着できたときは、今では伝説になってしまった井上ラーメンの列に並んだ。椅子もなく、見知らぬ人と肩寄せ合うようにして食べなければならなかったが、秋空の下ですする “うどん” やラーメンは格別だった。一杯600円のラーメンにはチャーシューが5枚ほど入っていた。駅の近くの洋食屋も安くて美味だった。

 

友人を伴うこともあったし、父が元気な頃は一緒に行ったこともあった。父の育った家の近所をまわり、その近くのお店でお昼を食べ、場外市場でムロアジの干物を買った覚えがある。

(昨今はアジの干物というと「マアジ」ばかりで、父の好きだったムロアジはレアである。)

 

だが、中央卸売市場(場内市場)の豊洲移転を目前にして、私のお気に入りの店の多くは店を閉じた。井上ラーメンにいたっては移転前に焼失してしまった。3年ほど前に行ったとき、そこにあったのは、もはや私の築地ではなく、外国人観光客のための築地だった。

 

マグロのカマを出してくれる寿司屋の代わりにインスタ映えするお寿司の店が繁盛していた。丸ごと揚げたニンニクがのっかっていたラーメン屋もなくなってしまい、代わりに現れたのはスティックに刺した卵焼きや、築地のロゴ入りグッズなどの土産もの屋。お祭りの屋台が常設になったような感じで、それはそれで楽しいけれど、私にとっては築地にわざわざ来るほどのことではない。

 

外市場はもともと、場内市場で働く人たちや、場内市場に買い出しに来る人たちのために発展した。だから、街中では見ることができないような、ダイナミックな発想の食事や、業務用の食材、調理用具などが中心で、それが私の興味を引いたのだった。ターゲットのお客が変わってしまうのだから、お店も変わらなければやっていけない。

 

活気を失わないためには観光地となることは必定だけど、これまでの築地の空気を愛した者にとっては手のひらを返された感じがして、父の戸籍を取りに築地に行ったのを最後に足を運ぶのをやめてしまった。