風情のある日本家屋と樹木の青々と茂るお庭🏡
その周りに突如、無機質なフェンスが築かれたかと思うと、「建築計画のお知らせ」のパネルが掲げられ、工事が始まる。
フェンスが外されると、ピッカピカのマンションが現れる🏢
この情景をかれこれ四半世紀、絶えることなく目にしてきた。
その間、フェンスの外側(こちら側)には、決まってガードマンが立つ。
工事人は工程によって変わるが、ガードマンはたいてい同じ人だ。1年以上顔を合わせるので、お互い顔を覚えてしまったりする。
往復はスーツを着ていたりすると、道でお辞儀されても、「?」。家に帰って、「あー、あのおっちゃんかぁ」と感動することもあった(立派な紳士だった😯)
父が元気なときも、角に立っているおっちゃんと仲良くなって、夏になると「暑い中、大変ですねー」などと言葉を交わしていた。
タワマンの現場には、若いお姉さんが立っていたこともあった。
決してラクな仕事ではない。皆それぞれに事情があるのだろう。
ある電機会社の社長夫人が亡くなった。
お家は取り壊され、有名建築家の息子がそこに何かを建てることになった。
ガードマンは足の悪いおっちゃんだった。
暑い日も、寒い日も、雨の日も立っていた。
私がコートのベルトを引きずって歩いていたら、注意してくれたこともあった(その節はどうも🙇♀️)。
ある日気がついてみると、おっちゃんが立っていた場所に綺麗な花が咲いていた🥀
1年以上経って、フェンスの中から4階建てのガラスの邸宅が現れた。
建物自体がオブジェのよう。外回りはガラス張りで、ビルのあちら側が透けて見える。賃貸マンションだった。
お家賃、月75万円らしい。
5月吉日、お披露目会が盛大に催され、エントランスには花束が飾られ、コギレイな身なりの関係者が多数出入りしていた。
ガードマンのおっちゃんの姿は気がつくと消えていた。花が咲いていた場所は外装工事で駐車場となり、高級車が鎮座していた。
ガラスの邸宅では、どんな人がどんな生活を始めるのか、私には見当もつかない。
確かなのは、そこにはかつて趣きのある木造住宅が建っていたこと、外壁に絡まる蔦の葉が秋になると美しかったこと、その中から素敵な歌声が聴こえてきたこと、オシャレな老婦人が住んでいたこと、そして暑い中マスクをしながら汗を流して働いていた人のおかげでその邸宅が建ったこと…そんなことに思いを巡らせることもなく、騒音と振動に耐え、度重なる通行止めに遠回りを余儀なくされた住民を窓越しに見下しながら、引越し祝いのシャンパンに酔う🥂…そんな人たちがまた、この街に増えるということだ。
そしておっちゃんは次の現場で、新たな夏を迎える。