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「ラスト・ソング」のその後

室町の納豆蕎麦

私が幼稚園〜小学生の頃、我が一族では夏になるとグランド・ツアーが催された。

グランド・ツアーと言っても、決まって箱根湯本の温泉旅館の二泊三日旅行だった。

 

祖父母を先頭に、祖父母の子供たちと配偶者たち、孫とその配偶者たち、さらにはひ孫…、総勢20人ほどいただろうか、かなり賑やかな旅行だった。

きょうだいのいない私にとって、同年代の “いとこ” や “はとこ” と遊べる、楽しい旅行だった。

 

旅館には娯楽施設が各種揃っていて退屈することはなかった。

「大・流しそうめん大会」をしたこともあったっけ。

箱根湯本の街でお昼を食べることもあった。

最近のコロナ報道で混雑や閑散が繰り返し報道される街だ。

 

箱根の名物は蕎麦のようで、今ならファミレスやカフェもあろうが、当時は蕎麦屋だらけだった。

が、私は、食べ物の好き嫌いは殆どないというのに、蕎麦だけはダメだったのだ。

蕎麦屋の前で「うどんでなきゃヤダ💦」と泣き叫んだ記憶がある。

(東京の蕎麦屋と違って、うどんという選択肢がなかった覚えがある。結局どうしたのかは覚えていない。)

 

そんな私は蕎麦を極力回避して成長した。給食に出なかったのは救いだった。

 

30代の半ば、勤務先が日本橋だったことがあった。日本橋も蕎麦の聖地である。

お昼に同僚が食べている蕎麦を見て、これならいけそう…と思ってトライしてみたら、なんと美味しいではないか!

日本橋の蕎麦は、色が白くて、ゴソゴソしていないのだ。上品でさっぱりしている。

それだけではない。その店は、出汁も芸術的に美味で、具も超洗練されている。

 

ということで、日本橋を去って20年近く、蒸し暑い季節になると電車を乗り継いで蕎麦を食べに行く。私のお気に入りは「納豆蕎麦」だ。

この店は、祖父母が明治〜大正時代に住んでいた日本橋室町にある。私にとって「故郷の味」なのかもしれない。

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日本橋室町は一軒一軒の面積が小さく、この店でも、お昼時には、地下〜2階に人がぎっしり詰まる。誰もが相席になるが、この店では相席が苦痛にならない。どころか相席が楽しかったりする。

 

実は、この蕎麦屋、材料が洗練されているだけのことがあり、お安くない。

蕎麦一杯が、この界隈の店の定食より高かったりする。それだけのお金を蕎麦にかけるのは中高年の食通の常連ということになるので、皆さん、身なりもきちんとされているし、とても礼儀正しく、心地よい。

相席の人が食べているものを、「今度はこれにしよう」と思いつつ観察することもある。

店員さん達もシャキシャキ働いていて、高級ホテルのレストランの雰囲気と言っても過言ではないと思う。

 

ときにかなり古くから来ている方が、ときに車椅子などで介助者とともに来て、「ここのお蕎麦が食べたかったんです」などと喜んでいる姿は感動的でさえある。

 

さすがに新型コロナの絶頂期は行く気になれなかったけれど、先日、買い物に行ったとき、ふと呼ばれた気がして入ってみた。

ーちょうど宣言も開けたことだし…。

 

お昼時だったけれど土曜日だったので混んでいなかった。一人で4席を占領して納豆蕎麦を堪能した。

相席でなかったのは、ここに通って初めてのことかもしれない。ちょっと寂しかった。

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日本橋名物、納豆蕎麦

このお店には、コロナに負けず、頑張ってほしいと思う。

ここがなくなったら、私はまた、ただの蕎麦嫌いになってしまうのだから。