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「ラスト・ソング」のその後

秋空聖地散歩

前々回の築地のほか、我が家にはもう一箇所、「聖地」がある。

父の出生地であり、祖父が長年仕事をした、日本橋だ。

 

我が家があったのは日本橋室町。三越の向かい側の一角で、かつては日本橋田原町と呼ばれ、日本橋魚河岸で仕事をする人たちの家が軒を連ねていた。今でも、かつお節屋や佃煮屋、海苔店などの老舗が建ち並ぶ。高層ビルだらけになってしまったけれど、古い建物もまだ残っており、微かに江戸の残り香がある。築地ほど観光地化されていないので、私も年2回ほど足を運ぶ。

 

日本橋はビジネスマンも多いので、飲食店も多く、名店も多い。この近くで仕事をしていた頃は、お昼に、忘年会に、実にいろいろな店に入ったが、今、家から電車を乗り継いで行ってまで入りたいと思う店はというと、室町の蕎麦屋だ。

 

実は私は、蕎麦があまり好きではないのだけれど、この店の蕎麦は別格で、わざわざ食べに行く。納豆蕎麦が美味しいと感じる蒸し暑い頃と、温かい蕎麦が恋しくなる頃。蕎麦にしてはイイ値段なので、店に入って来る人たちは品が良いし、ウエイトレスのおばちゃん達もテキパキしていて気持ちが良い。行ったことはないけれど、星付きのレストランはこんな感じだろうかと思う。

 

蕎麦を食べた後は、かつお節屋さんで出汁パックを買ったり、コレドやオアゾで雑貨を見たりする。日銀のお膝元ならではの心遣い…この界隈で買い物をすると、お釣りにもらうお札にピン札が多い。

 

かつては三越の屋上にあったチェルシー・ガーデンで植物を見るのも楽しみだった。売り場というより小さな植物園とも言えるくらい豊富で、”植物マニア” たちが、照りつける太陽も吹き荒ぶ北風もモノともせず熱心に眺めていたものだが、突如としてなくなってしまった。ここのデパ地下は新宿のデパ地下と一味違って、私には新鮮に感じられる。ハンペンを買ったり、パンやスイーツを買ったり。本店だと行列に並ばなければならない洋食屋さんも、ここの地下ならスムーズに入れて、本店と同じ味を楽しめる。

 

祖母が生きている頃、祖母の行きつけの美容院(「髪結いさん」と祖母は呼んでいた)がこの辺りにあって、わざわざ足を運んでいたらしい。祖母はどんな楽しみ方をしていたのだろう。

 

そんな祖母に連れられて、幼い私が初めて日本橋を訪れたときのこと。

「乙姫さま、見たい?」ときかれて、ワクワクしてついて行ったら、石でできたお姫さまが一人で腰をかけている像だった。王子様も、浦島太郎もいなかった。

日本橋魚河岸跡に作られた有名な像らしいが、西洋のお姫さまを想像していた私は、あまりの素朴さに、がっかりしたものだ。

 

日本橋の上を走る首都高がいずれ地下になるという。

乙姫さま、見晴らしが良くなりますね。