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「ラスト・ソング」のその後

スイカが食べたい!

カットスイカが店先に並ぶ季節になった。

私が子供の頃は、スイカは夏休みに食べるものだったけれど、最近はイチゴがまだ店頭にあるうちにスイカも現れて、この時期はいろいろな果物が食べられる、私の一番好きな季節になった。

 

母が入院したのがクチナシの咲く頃。蒸し暑い嫌な季節を病院の中で過ごした。

父と私は毎日面会に行った。

そんなとき、食後にスイカを食べていて、私が思わず「ママと一緒にスイカ食べたいね」と言ったら、父も「本当だよなぁ」と大きく頷いた。

 

特に母がスイカを好きだったというわけでも、毎年スイカ割りをしたというような特段の思い出があるわけでもない。ただ、ボソッと思いついたそのセリフを、父と私は合言葉のように、母の入院中繰り返した。そしておそらく父も、私も、3人でスイカを(我が家の場合は大きいまま出すことはなかったので、カットスイカである)食べるシーンを思い描き続けた。

 

入院中、予定外の胃潰瘍やら肺炎やらMRSA感染症やらを発症してしまった母が退院したのは秋になってからで、その年、3人でスイカを食べることはできなかったけれど、確か翌年、食べることができた(と思う)。

 

今になって思うのだけど、家族がこうやってささやかな夢を思い描いて介護なり看護なりすることって、実はすごく大切なのではないだろうか。

「夢」と言ってしまうと何かすごく大それたことになりがちだけれど、そんなすごいことでなくていいのだと思う。思い出の場所にもう一度行きたい、ずっと長い間隠していたことを打ち明けたい、近所のお蕎麦やさんの鍋焼きうどんを一緒に食べたい・・・今はできないけれど、ちょっと頑張ればできることを、言葉にしなくてもいい、頭に思い描き続ける。それがちょっとした力になって、もしかしたら介護される人に伝染して、実現することもあるのだと思う。